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職員による虐待事案発生時の事業リスクと対処方法

介護施設や福祉施設において、職員による虐待事案が発生すると、事業運営に大きな影響を及ぼします。高齢者虐待防止法や障害者虐待防止法などでは、何人も虐待の疑いがあれば、市町村に通報することが求められており、通報により虐待事案が発覚することが増えています。このように事業者にとって年々職員による虐待事案発生により事業リスクが高まっているといえ、本記事では、職員による虐待が発生した際のリスクと、それに対処するための具体的な方法について解説します。

 

1.虐待とは

まず、虐待とはどのような行為をいうのでしょうか。虐待の種類としては、以下のものが挙げられます。

 

身体的虐待

利用者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること又は正当な理由なく身体拘束を行うこと

 

放棄・放任(ネグレクト)

利用者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置 、養護者以外の同居人による虐待行為の放置など、養護を著しく怠ること。

 

心理的虐待

利用者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

 

性的虐待 

利用者にわいせつな行為をすること又は利用者をしてわいせつな 行為をさせること。

 

経済的虐待

財産を不当に処分することその他当該利用者から不当に財産上の利益を得ること。

 

2.虐待事案発生時の事業リスク

職員による虐待が発覚した場合、以下のようなリスクが生じます。

(1)法的リスク

■行政上の責任

市町村は虐待の疑いがある場合、施設に対して調査を行い、虐待が確認された場合には改善を求める行政指導、勧告や業務停止命令、指定取消などの処分が下されることがあります。行政から処分を受けてしまうと、施設運営にとって致命傷となってしまいます

 

■刑事責任

虐待行為が刑法に抵触する場合、加害職員だけでなく、施設の管理者が監督責任を問われる可能性があります。例えば、以下のような刑事責任が生じる可能性があります。

 

身体的虐待

殺人罪、傷害罪、傷害致死、暴行罪、逮捕監禁罪

 

性的虐待

不同意わいせつ罪、不同意性交罪等

 

放棄・放任(ネグレクト)

保護責任者遺棄罪、保護責任者遺棄致死傷等

 

心理的虐待

脅迫罪、強要罪、名誉毀損罪、侮辱罪等

 

経済的虐待 

詐欺罪、恐喝罪、横領罪等

 

■民事責任

被害者やその家族から損害賠償請求が行われる可能性があります。虐待により死亡などの重大な結果が生じた場合には、賠償額が高額化することもあり、経営に重大な影響を及ぼすことになります。

 

(2) 経営リスク

信用の失墜

虐待については、行政による公表措置やマスメディアに報道されることがあり、これらがなされると、施設の信頼が著しく損なわれます。

 

利用者の減少

虐待の発生により、新規利用者の獲得が困難になります。

 

財務的負担

収益の悪化、賠償金の負担により、経営が圧迫される可能性があります。 

 

職員への影響

職員間の不信感が生じ、チームワークが崩れたり、信頼を失った組織から有能な職員が離職したりするリスクがあります。

 

3.虐待事案発生時の対応

このように、虐待事案の発生は事業者にとって大きなリスクとなります。事業者としては、虐待事案の発生を事前に防ぐことが重要ですが、不幸にも虐待事案が発生した場合には、迅速かつ適切に対応することが重要です。

なお、日ごろから、虐待が発生した場合に備えてマニュアルを作成しておくなど予め対応を決めておくと迅速かつ適切な対応が可能になります。

 

(1) 初動対応

虐待事案が発生した場合、初動対応が重要となり、概ね、以下の対応を行います。

 

被害者の安全確保

速やかに被害者を保護し、必要に応じて医療機関への受診を手配します。

 

加害職員の処分

事実関係が確認されるまで、当該職員を業務から外すとともに、事実関係が確認された場合には、社内規程に従い、厳正な処分をお行います。

 

警察・行政への報告

市町村や関係機関へ報告するとともに、必要に応じて警察と連携します。

 

(2) 事実関係の調査

初動対応と並行して、事実関係の調査を行います。事実関係の調査にあたっては、証拠を保全しつつ、関係者へのヒアリングを行うことが中心となります。事案が重大や複雑である場合、内部に調査を行う適切な部署がない場合、公正な調査を行う場合などは、外部の専門家や弁護士と連携して行うことが考えられます。

 

証拠の保全

被害者の了解を得たうえで、証拠の確保を行います。外傷の写真撮影、防犯カメラ映像の確保、医療機関の診断書、当時の状況についての記録化などが挙げられます。

 

関係者へのヒアリング

被害者、加害職員、目撃者などから事情を聴取します。

 

(3) 被害者とその家族への対応

虐待が発生した場合、被害者とその家族への対応を行うことが必要です。

 

謝罪

事実関係を明確にしたうえで、被害者とその家族に対して適切な謝罪を行います。

 

被害回復

被害者に損害が生じている場合には、適切な賠償・補償を行い、被害回復に努めます。また、治療、カウンセリングや支援を講じ、被害者の身体的・精神的な回復を支援します。

 

再発防止

今後の改善策を策定し、再発防止への取り組みを説明するとともに、再発防止策を実行します。

 

 

(4) 組織としての対応

虐待事案の発生後、組織として、原因を究明し、再発防止を行う必要があります。虐待事案が生じた原因により再発防止策も変わってきますが、一般的なものとしては、以下のものが考えられます。

 

再発防止策の強化

・虐待防止マニュアルの作成・改訂

・職員向け研修の強化

・内部通報制度の強化

 

職場環境の改善

・職員の労働環境を見直し、過度なストレスや負担を軽減する

・定期的な面談を実施し、職員の精神的負担を把握する

 

情報共有の徹底

・事案の発生後は、施設全体で情報を共有し、虐待の原因となった環境の改善に取り組む

 

4.まとめ

職員による虐待事案は、事業運営に深刻な影響を与えるため、適切な対策が求められます。適切な対応を行うことが、組織の信頼回復と責任の履行につながります。事業者としては、日頃から防止策を講じることが求められます。

 

組織全体で「虐待を許さない」文化を醸成し、利用者と職員が安心して過ごせる環境づくりを目指しましょう。

 

 

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